心臓震盪により死亡したケースで損害賠償請求が認められた事例

皆さんは「心臓震盪(しんぞうしんとう)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

おそらく「脳震盪(のうしんとう)」は多くの方々がご存知のことと思います。

練習や試合中に頭を強打したような場合には、脳震盪を起こしていないかと心配して様子を見るということがあるでしょう。

しかし、心臓震盪についてはあまり知られていないのが実情です。

野球では、「打球が捕れない場合でも体で止めろ。ボールを体の前で止めればアウトにできる。」と指導することがありますが、実は、この指導方法は非常に危険なものといえます。

心臓震盪は命に関わる重大な症例なのです。

実際に、心臓震盪により死亡したケースで、遺族による損害賠償請求が認められた事例があります。

今回はその事例を紹介したいと思います。

事案の概要

小学校4年生の生徒が公園内でピッチング練習をしていた際、投げたボールがそれてしまい、公園内で遊んでいた無関係の小学生の胸腹部に当たってしまいました。

すると、その小学生は全身虚脱の状態となり、その場に倒れ込みました。

救急隊が到着した時点では既に心肺停止の状態となっており、救急車で病院に搬送されましたが、ボールが当たってから約4時間後に死亡しました。

この事故について、裁判所は、小学生の死因が心臓震盪であると認定しました。

この裁判では、キャッチボールをする際にボールがそれて第三者に当たってしまい、その結果、心臓震盪により死亡することについてまで予見するべきなのかが争いになりました。

この点について、裁判所は

「本件事故当時の公園の状況でキャッチボールをすれば、ボールがそれて他人にあたることが十分に予見でき、軟式野球ボール(C球)が他人に当たった場合に、その打撃部位によっては他人に傷害を与え、さらには死亡するに至らせることがあることも予見しえたというべきであるから、かかる危険な状況でのキャッチボールを避けるべき注意義務があったのに、漫然とこれを行った過失があるといわざるをえない。」

と判示しました。

また、裁判所は、

「心臓振盪等の具体的死亡経過について予見できなかったとしても、ボールがそれて他人に当たること、それによって死亡することもあることの予見可能性があった以上は、死亡の結果に対する責任も免れないというべきである。」

「小学4年生といえども、ピッチング練習として力を込めて投げたボールが無防備の人の頭部や心臓部等の枢要部に当たった場合に、その人が死亡することもありうることは、一般人にとっても十分に予見でき、その予見可能性がなかったとはいえない。」

と判示しました。

心臓震盪とは何か

心臓震盪は、心臓上の胸壁に打撃が加わって心臓が停止する状態で、心臓一周期のうちの限局された時間帯に打撃を受けたときに生じます。

心臓震盪は衝撃の力によって心臓が停止するのではなく、心臓の動きの中で、あるタイミングで衝撃が加わったときに、「心室細動」という心臓の筋肉が痙攣している状態となり、心臓は収縮できず血液を送り出せなくなります。

つまり、心臓が停止している状態になるのです。

打撲痕がない程度の弱い衝撃でも発生することがあって、例えば、下手投げでゆっくり投げた柔らかい野球ボールが6歳の子供のグローブをはねて胸部に当たったことによって心臓震盪が生じた例も報告されています。

胸壁上の打撃が直接心臓に影響を及ぼしやすい若年者に好発するとされています。

心臓震盪の診断基準は、

  1. 心肺停止の直前に前胸部に非穿通性の衝撃を受けたこと
  2. 詳細な発生状況(衝撃の手段や衝撃後の状態等)が判明していること
  3. 胸骨、肋骨及び心臓に構造的損傷がないこと
  4. 心血管系に奇形が存しないこと

であるとされています。

心臓震盪はどのようなスポーツでも起こりうる

先ほど紹介した裁判例は、小学生による野球の現場で起こった事故です。

被害者は野球とは全く関係のない小学生でした。

このような心臓震盪は、野球に限らず、他のスポーツでも起こりえます。

例えば、サッカーボールを胸でトラップした場合、ラグビーでタックルを受けた場合、空手やボクシングなどの格闘技で胸部付近に打撃を受けた場合などが考えられます。

つまり、身体的な接触が胸部付近であった場合には、心臓震盪が起こりうるということになるのです。

心臓震盪を発症した場合の対処方法

心臓震盪を発症した場合には、一刻も早くBLS(一次救命処置)を開始することが必要になります。

BLS(一時救命処置)には、心臓マッサージ・気道確保・人工呼吸などがありますが、特に心室細動に対しては除細動を実施することが必要です。

除細動とは、心室細動に電気的ショックを与え、正常な心臓の動きに戻す治療行為をいいます。

そのための治療器具がAED(自動体外式除細動器)です。

心室細動に対する除細動治療が1分遅れるごとに約7~10%治療成功率が低下するといわれています。

また、心臓停止時間が5分以上になると、脳障害が発生し、意識の回復が難しくなり社会復帰することができなくなるといわれています。

さらに、10分以上が経過してしまうと救命が困難になるといわれています。

119番通報してから救急隊が現場に着くまでは時間がかかりますので、現場にいる人が直ちに除細動を実施することが必要なのです。

最後に

スポーツの現場では心臓震盪がいつ誰に生じるかわかりません。

だからこそ、AEDがどこに設置されているかを予め確認しておき、万が一心臓震盪を発症した場合には直ちにAEDを使って除細動を行う必要があります。

こうした事前の知識が、現場で命を救うことになるということを十分に認識していただければと思います。

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