「損害賠償責任を負わない」との免責特約が否定された事例

昨今の健康志向や運動不足解消などの理由で、フィットネスクラブやスポーツジムなどに通われている方も多くいらっしゃると思います。

また、「結果にコミットする」を謳い文句にしたスポーツジムや24時間利用可能なフィットネスクラブも流行しています。

もっとも、安全に配慮された運営が行われていたとしても、フィットネスクラブやスポーツジム内での事故が発生しないとも限りません。

しかし、事故の責任が運営者の側にあると考えて損害賠償を請求しようとしても、会則で「本クラブの利用に際して生じた事故については一切損害賠償の責任を負わない」という免責特約が定められているケースがあります。

このような免責特約が会則で定められているフィットネスクラブやスポーツジムで事故が発生した場合、被害者は運営者に対して損害賠償を請求することはできないのでしょうか。

この点についての裁判例である東京地方裁判所平成9年2月13日判決を紹介したいと思います。

事案の概要

被告は、所有する建物にプールその他のスポーツ施設及びその関連施設を設置、所有し、スポーツクラブを開設してその運営・管理を行っていました。

原告は、このスポーツクラブに個人正会員として入会し、本件施設を利用していました。

原告は、事故当日、本件施設1階にあるプールで行われた水中体操に参加し、終了後シャワーを浴び、階段で2階まで上り、2階にあるロッカールームに通ずる廊下を歩行中、柱付近の箇所にたまっていた水に足を滑らせて転倒し、左手が柱の角に当たり、左橈骨遠位端骨折、左尺骨茎状突起骨折の傷害を受けました。

そこで、原告は本件施設の設置又は保存に瑕疵があったと主張して本件の損害賠償請求訴訟を提起しました。

これに対し、被告側は、本件施設の設置又は保存に瑕疵があったことを争うとともに、本件スポーツクラブの入会に際し、被告との間で、「本クラブの利用に際して、会員本人または第三者に生じた人的・物的事故については、会社側に重過失のある場合を除き、会社は一切損害賠償の責を負わないものとする。」との免責特約がされていることなどを主張しました。

裁判所の判断

本件施設の設置又は保存の瑕疵について

民法717条1項は

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

と規定しています。

これを土地工作物責任といいます。

「土地の工作物」とは、土地の上に人工的に設置された物をいいます。

建物や道路などが代表例です。

本件事故は、原告が階段を上り、女子ロッカールームに行くための通路に続く廊下を歩行中に発生したものであり、本件施設の一部である廊下とコンクリート壁等からなる通路が「土地の工作物」に当たることになります。

問題は「設置又は保存に瑕疵がある」といえるかどうかという点になります。

裁判所は、「工作物の設置又は保存に瑕疵がある」とは、

当該工作物が当初から、又は維持管理の間に、通常あるいは本来有すべき安全性に関する性状又は設備を欠くことをいい、その存否の判断にあたっては、当該工作物の設置された場所的環境、用途、利用状況等の諸般の事情を考慮し、当該工作物の通常の利用方法に即して生ずる危険に対して安全性を備えているか否かという観点から、当該工作物自体の危険性だけでなく、その危険を防止する機能を具備しているか否かも併せて判断すべきである。

と判示しました。

そのうえで、裁判所は

  1. 本件事故当時、被告は、階段の一階の上り口、一階と二階との間の踊り場、二階に上がった所にそれぞれ足をふくためのマットを置き、階段の一階の上り口、一階と二階との間の踊り場には、身体をよくふくように促す注意書きを掲示していたが、プール、シャワー利用後よく身体を拭かず、水着が水分を相当含んだ濡れた状態のままで利用者が通行することが少なくなかったため、本件廊下は、ナラの小市松材質でフローリングされた床面上に水滴が飛散し、しばしば滑りやすい状態になったこと、
  2. 殊に、コンクリート壁の端付近の箇所は、何らかの原因のために、利用者の身体から落ちた水滴が集まって小さな水たまりができやすく、この箇所に水がたまっていると滑りやすかったこと
  3. 利用者は素足で本件廊下を通行するので、転倒して受傷する危険性があったこと
  4. 被告の係員は、本件廊下やロッカールーム等をおおむね一時間おきに巡回して床の水をふき取ったり、プールでのレッスンが終了した後も、時間を見計らって本件廊下の水をふき取る等して清掃を行っていたが、その清掃が行われる前には、本件廊下、殊に、前記コンクリート壁の端付近の箇所は、小さな水たまりができる等して滑りやすい状態になっていたこと
  5. しかるに、カラーすのこを敷く等して右危険を防止する有効な措置が執られていなかったこと

などの事実を認定し、

本件廊下は、一階から濡れた水着のままで上がってくるプール利用者が通行するため、利用者の身体から水滴が落ち、素足で通行する利用者にとって滑りやすい箇所が生ずるという危険性を有していたものというべきである。

として

本件施設には、設置又は保存の瑕疵があったものと解するのが相当である。

と判断しました。

免責特約について

本件スポーツクラブの会則には、「本クラブの利用に際して、会員本人または第三者に生じた人的・物的事故については、会社側に重過失のある場合を除き、会社は一切損害賠償の責を負わないものとする。」旨の規定があるため、本件事故にこの免責特約が適用されるか否かが問題になりました。

まず、この裁判では、原告が被告との間で、本件施設の利用等に関する合意が成立しているのかという点が問題になりましたが、裁判所は

「原告は、本件スポーツクラブの入会に際し、被告との間で、本件スポーツクラブの会員資格、本件施設の利用等に関する具体的な内容は本件会則の定めによることを承認する旨の包括的な合意をしたものということができる」

としました。

もっとも、本件のような事故についても免責特約の効力が及ぶのかについては、

「本件会則が被告によって一方的に定められ、多数の会員に統一的に適用されるべき定型的なものであること、原告に限らず、入会を申し込む者は、本件スポーツクラブの管理、運営上必要、かつ、相当な内容のものが定められているはずであると考えて右のような包括的な合意をするのであり、このような期待ないし信頼について保護されるべき正当な利益を有するものといえることにかんがみると(中略)、その意味内容が一義的に明確に決まっていないため、その条項を解釈する必要がある場合には、個々具体的な契約当事者の立場から入会に際しての個別具体的な事情を考慮したり、あるいはあたかも法令の解釈に当たって立法者の意思をしんしゃくするように作成者である被告の意思をしんしゃくして当該条項を解釈すべきではなく、一般的、平均的な入会申込者ないし会員にとって予期可能であり、かつ、合理的に理解することができる内容のものとして客観的、画一的に当該条項を解釈すべきである。

としました。

その上で、裁判所は、

本件規定は、「本クラブの利用に際して、会員本人または第三者に生じた人的・物的事故については、会社側に重過失のある場合を除き、会社は一切損害賠償の責を負わないものとする。」旨定めているのであるから、文言上は本件施設内で被告の軽過失により生じた一切の債務不履行及び不法行為につき被告の損害賠償責任を免除する趣旨であるかのように読む余地が全くないわけではない。

しかし、一般的、平均的な入会申込者ないし会員にとって予期可能であり、かつ、合理的に理解することができる内容のものとしては、スポーツ活動には危険が伴うから、会員自ら健康管理に留意し、体調不良のときには参加しないようにすべきであること、あるいは本件施設に現金、貴重品を持ち込まないようにすべきであり、持ち込むときには自らの責任において管理すべきであること、したがって、会員自らの判断によりスポーツ活動を行い、あるいは本件施設に現金、貴重品を持ち込んだ結果、身体に不調を来し、あるいは盗難事故に遭ったときには、被告に故意又は重過失のある場合を除き、被告には責任がないこと、以上のように理解するものと考えることができる。すなわち、社会通念上、普通の知識、経験を有する成年の男女がスポーツ活動を行う場合には、スポーツ活動そのものに伴う危険については、通常予測される範囲において、スポーツ活動を行う者がこれを自ら引き受けてスポーツ活動を行うものと考えられているのであり、本件規定は、このような社会通念を踏まえて、スポーツ施設を利用する者の自己責任に帰するものとして考えられていることについて、事故が発生しても、被告に故意又は重過失のある場合を除き、被告に責任がないことを確認する趣旨のものと解するのが相当である。

とし、

本件施設の設置又は保存の瑕疵により事故が発生した場合の被告の損害賠償責任は、スポーツ施設を利用する者の自己責任に帰する領域のものではなく、もともと被告の故意又は過失を責任原因とするものではないから、本件規定の対象外であることが明らかであるといわなければならない。

として、本件施設の設置又は保存の瑕疵により事故が発生した場合の被告の損害賠償責任は、スポーツ施設を利用する者の自己責任に帰する領域のものではなく、もともと被告の故意又は過失を責任原因とするものではないから、本件免責特約の対象外であるとしました。

免責特約があっても損害賠償責任が認められることがある

この裁判例のように、「損害賠償の責任を負わない」という免責特約が定められていたとしても、その意味内容が一義的に明確に決まっていないため、その条項を解釈する必要がある場合には、一般的、平均的な入会申込者ないし会員にとって予期可能であり、かつ、合理的に理解することができる内容のものとして客観的、画一的に当該条項を解釈することで、免責特約の対象外であると判断されることがあります。

また、この裁判例では、

「免責特約の意味内容が確定している場合においても、その内容が合理性を備えている場合に限り、会員の具体的な知不知を問わず、会員に対する法的効力を有するものであり、そのような合理性を備えていないときには、当該特約は会員に対する法的効力を有しないものと解するのが相当である。そして、本件会則の規定の内容が、会員資格取得の手続、本件スポーツクラブの管理、運営に関する事項を定めるものである場合には、公序良俗に反するものでない限り、原則として右の合理性を肯定することができるが、契約当事者としての基本的な権利義務又は不法行為による損害賠償請求権に関する権利義務について定めるものである場合には、そのように定める目的の正当性、目的と手段、効果との間の権衡等を考慮して右の合理性を備えるものであるか否かを判断するのが相当である。

と判示しています。

つまり、このような免責特約を会則に定めていたとしても、それだけで損害賠償の責任を免れるわけではないのです。

したがって、スポーツクラブやフィットネスクラブ内での事故でけがをした場合、被害者は必ずしも泣き寝入りする必要はないため、まずは事故の状況などについて相談していただければと思います。

また、運営者の側も、このような免責特約を定めているから損害賠償責任を負うことはないと慢心することなく、事故の発生を未然に防ぐことに万全の注意を図る必要があることを忘れないでいただきたいと思います。

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