子供が格闘技や武道でけが等をした場合に損害賠償請求が可能か

先日、高校の同級生であり、現在、「格闘技ドクター」として活躍中のスポーツドクター、二重作拓也医師から

まだ小学校にも入学していないような小さな子供が大人に準じたルールで危険な試合をしている動画がネット上にアップされているんだけど、岩熊先生的にはどう思う?

という電話がありました。

私もその様子がどのようなものであったのかが気になり、すぐにYouTubeで確認したのですが・・・。

そこで見た光景は、小さな子供がヘッドギアやグローブをつけて試合で殴り、蹴り合っている様子、ヘッドギアをつけることなく相手の頭部や腹部を殴ったり蹴ったりしている様子でした。

また、道場やジムでも、大人でも危険だろうと思われる対人練習の動画も目にしました。

二重作医師によると、

このような頭部への打撃は脳に対してのダメージが蓄積されていくこととなり、脳にダメージを負うことは脳細胞の死を意味し、脳代謝に狂いを生じさせ、器質的にも機能的にも弱い人間をつくってしまう

胸部への打撃で心臓震盪が実際に起きて救急搬送される事態になっている

ことから、医学的に見て問題があるということでした。

詳しく知りたいという方は、二重作医師による「格闘技医学情報」をごらんください。

では、子供が格闘技や武道でけが等をした場合に損害賠償を請求することは可能でしょうか。

考えられる問題点について指摘してみたいと思います。

相手の子供に対する損害賠償請求が可能か

まず考えられるのが、対戦相手の子供に対する損害賠償請求です。

この場合、以下のような点が問題となります。

ルールを守っていれば違法性が認められない

格闘技や武道の試合中に起きた事故により対戦相手に対して損害賠償を請求するという場合、法律的には不法行為に該当しなければなりません。

そして、不法行為に該当するというためには、加害者である対戦相手の行為が違法であるということが前提となります。

この点、スポーツには必ずルールが存在しますが、このルールを守っていたという場合には、ルールの範囲内であれば何をやってもいいということではありませんが、基本的には違法性は認められません。

判例には

「一般に、スポーツの競技中に生じた加害行為については、それがそのスポーツのルールに著しく反することがなく、かつ通常予測され許容された動作に起因するものであるときは、そのスポーツの競技に参加した者全員がその危険を予め受忍し加害行為を承諾しているものと解するのが相当であり、このような場合加害者の行為は違法性を阻却するものというべきである。」

と判示したものがあります。

格闘技や武道の場合にはけがをするというリスクは当然ありますし、その試合に出場するということはけがをするかもしれないという危険を予め認識しているといえます。

したがって、ルールの範囲内での事故の場合には違法性がないものといえるため、不法行為に該当せず、損害賠償請求は認められないということになります。

子供には責任能力がない

仮にルールに著しく反する行為がなされた結果、違法性が認められ、不法行為に該当するような行為がなされていたとしても、必ず損害賠償請求が認められるわけではありません。

民法712条は、

未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

と規定しています。

この「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」のことを責任能力といい、加害者に責任能力がないと認められる場合には、加害者は損害賠償責任を負わないこととなります。

この責任能力については概ね11~12歳程度が目安だとされています

つまり、小さな子供同士が格闘技や武道の試合で相手にけがをさせたとしても、子供には責任能力がないため損害賠償責任を負うことはありません。

結論

以上から、対戦相手の子供に対して損害賠償を請求したとしても認められることはありません。

対戦相手の親に対する損害賠償請求

では、けがをさせた対戦相手の親に対して損害賠償を請求することができるでしょうか。

加害者の行為が不法行為に該当しなければ請求できない

この点について、民法714条1項は

前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

と規定しています。

この規定により、けがをさせた子供が責任無能力者であるために損害賠償責任を負わないという場合でも、その監督義務者である親が損害賠償責任を負う場合があります。

もっとも、この民法714条1項における親の責任は、責任無能力者である子供の行為が不法行為に該当することを前提としています。

したがって、子供がルールに従って行った行為によりけがをさせたとしても、それが不法行為に該当しない場合には、親も損害賠償責任を負わないということになります。

親の責任が免責される場合がある

仮に子供がルールに著しく反した行為によってけがをさせたという場合には、民法714条1項により、その親が損害賠償責任を負うことになります。

もっとも、民法714条1項には

ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

という規定があります。

したがって、親が子供に対しての監督義務を怠っていないか、もしくは監督義務を怠らなくても対戦相手がけがをしたという場合には、損害賠償責任を免れることになります。

試合の主催者の責任

次に考えられるのが、試合の主催者に対する損害賠償です。

試合の主催者は、試合に出場する選手がけがなどをしないように配慮するべきという安全配慮義務を負っています。

したがって、この義務に違反したといえる場合には、損害賠償責任を負うといえるでしょう。

しかし、選手が試合のルールに従っていたにもかかわらずけがをしてしまったという場合には、安全配慮義務に違反するとまではいえないものと思われます。

また、ルールに著しく反する行為によってけがをさせたという場合であっても、格闘技や武道については一瞬の技によることが考えられ、そのような技がかけられそうになった時点でそれを止めるということができないということも十分に予測されます。

その意味では、試合の主催者が安全配慮義務に違反しているということを主張立証することは非常に困難であるといえるでしょう。

被害者の親にも責任がある

仮にけがをさせた選手の親や試合の主催者に損害賠償責任が認められたとしても、被害者である親にも責任があるといえると考えられます。

つまり、子供である被害者が格闘技や武道の試合に出場することによってけがをするかもしれないということは予め十分に予想することができます。

その意味では、自分の子供を危険な目に遭わせるような行動をとったという点では、被害者の親にも責任があるといえます。

法律的にいえば、被害者の子供にとっては、自分の親も加害者の一人であるということを意味します。

したがって、実際に対戦相手の親や試合の主催者に対して損害賠償請求が認められる場合であっても、被害者の親にも落ち度があるという意味では過失相殺がなされる可能性が高いといえます(これを被害者側の過失といいます)。

加害者がわからないというケースも出てくる

これまでの話は、どの試合における、どの選手による、どのような行為によってけがをしたかということが明確になっている場合にはじめて問題にできるものです。

逆に、いつの試合の、誰による、どのような行為によってけがをしたのかが不明であるという場合には、加害者を特定できないため、そもそも損害賠償を請求することすらできないということが考えられます。

これは、冒頭の二重作医師が懸念している「脳へのダメージの蓄積による障害」のようなケースです。

けがが外傷であれば、その原因をある程度特定することはできるでしょう。

しかし、脳へのダメージの蓄積という場合だと、誰の行為によるものであるのかを特定することはできません。

格闘技や武道をはじめてから脳に障害が発生するまでの間に対戦した選手の行為がすべて原因であるということも当然できません。

つまり、たとえ高度な医学的知識や経験をもっていたとしても、脳の障害の原因を特定することは困難なのです。

このような場合には、当然のことながら、誰の、どの行為が不法行為であるといえるのかが不明ですから、損害賠償請求をすることすらできないということになります。

最後に

以上のように、子供が格闘技や武道によってけがをしたとしても、それにより発生した損害の賠償を請求することはできないケースが多く、仮に損害賠償を請求できたとしても、過失相殺により相当な減額がなされると考えられます。

しかも、子供を危険な目に遭わせるような行動をとった親にも責任があるといえます。

子供のけがが治せたという場合には、それほど大きな損害とはならないかもしれません。

しかし、子供のけがが脳へのダメージの蓄積によって生じた障害だとしたら、いかがでしょうか。

十分な損害賠償が認められない一方で、障害を抱えたまま一生をすごさなければならない子供の将来を考えたとき、子供が安全に行える範疇を大きく逸脱した競技、その準備段階としての練習でダメージを蓄積することは、果たして本当に子供のためだといえるのでしょうか。

二重作医師が専門家の立場から懸念を示しているように、私も弁護士としては疑問を感じています。

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