公務員である教師に対しての求償権を行使するように命じた事例

拙稿「公立学校の教諭には事故や体罰に関する損害賠償義務がない?」の中で紹介していた大分県立竹田高等学校剣道部における熱中症による死亡事故に関連した一連の訴訟が終わりました。

ここで改めてご紹介してみたいと思います。

事案の概要

被害生徒は、当時、大分県立竹田高校の2年生であり、剣道部の主将を務めていました。被害生徒は、剣道の段位3段を取得していました。

平成21年8月22日午前9時、剣道部顧問は、剣道場において、剣道部の練習を開始させ、部員らは、胴と垂れを着け、体操、素振り及び足さばきを行い、午前9時30分頃からは、前進、後退等の足運びの練習を行いました。

その後、顧問らは、部員らに、午前9時55分頃から午前10時25分頃までの間、休憩を取らせました。

休憩時間中には、各部員がコップ2、3杯のスポーツドリンクを飲み、被害生徒もスポーツドリンクを飲みました。

また、保冷剤を当てて体を冷やす部員もいました。

午前10時25分頃から午前11時過ぎ頃まで、顧問らは、部員らに防具を着けさせ、大きく行う面打ち、大きくゆっくり行う切り返し、大きく速く行う切り返し、一息の切り返し(息継ぎをせずに行う切り返し)を行わせました。

一息の切り返しの練習中、顧問が、部員らを集め、被害生徒が一息の切り返しができているか確認させたため、被害生徒は、他の部員らよりも数回多く切り返しの練習をしました。顧問が、被害生徒を「合格」と判定してよいかどうかを他の部員らに尋ねたところ、2年生の男子部員1名が被害生徒を合格と判定しましたが、顧問は、その判定を撤回させました(なお、この前後に、顧問は、剣道場にあった椅子を床に向かって投げました)。さらに、顧問は、被害生徒の面の突き垂を上げ、被害生徒の首付近を叩き、被害生徒が、外れた面を着け直そうとして座ると、被害生徒を押すなどしました。

午前11過ぎ頃から打ち込み稽古が開始されました。

打ち込み稽古は、当初4人元立ちで行われましたが、途中で、3人元立ちとなり、その後、2人元立ち(元立ちを女子部員2名として、2対6で行う。)になりました。この間、部員らの中には、トイレに行って嘔吐するなどした者がいました。

被害生徒以外の部員が有効打を取って合格し、打ち込み稽古を終えていく中で、顧問は、被害生徒1人に繰り返し打ち込み稽古をさせました。顧問は、再び、他の部員らに被害生徒の合否を判定させましたが、他の部員らは被害生徒が合格であるとは判定しませんでした。このため、被害生徒は、他の部員よりも数回多く打ち込み稽古をしました。

この打ち込み稽古の最中、被害生徒が、「もう無理だ。」などと述べたのに対し、顧問が「お前の目標は何だ。」などと問い掛けたところ、被害生徒は、「大分県制覇だ。」、「俺ならできる。」と述べ、練習を継続しました。

なお、これまでの部活動において、被害生徒が、自ら「もう無理です。」などと発言することは稀でした。

被害生徒は、打ち込みの最後の面打ちについて、小技でしなければならないところを大技で、かつ元立ちの女子部員が頭を押さえるぐらいに強い力で打ち込みました。

元立ちが女子部員から男子部員に交代した後、元立ちが先に発声したのに対し、被害生徒が発声を返さなかったため、元立ちが発声するように促し、被害生徒の竹刀を払ったところ、被害生徒は竹刀を落としました。しかし、被害生徒はそのことに気が付かないまま、竹刀を構える仕草を続ける行動をしました。他の部員らが注意しても被害生徒はこれに気が付きませんでした。

顧問が、「演技するな。」などと言いながら、被害生徒の右横腹部分を前蹴りしました。被害生徒は、一旦は踏みとどまったものの、ふらついて倒れました。

他の部員が、被害生徒に対してコップで水を掛けると、被害生徒は、倒れたまま、自らの太腿付近を叩いたりする動作をしました。また、この間に、被害生徒は、自らの面をはぎ取るなどの動作もしました。

顧問が、被害生徒の頬を叩き、被害生徒は再び立ち上がったが、道場内の女子部室の方へふらふらと歩いて行き、壁に額を打ち付けて倒れました。このとき、被害生徒は、頭部から出血する傷を負いました。

顧問は、倒れた被害生徒の上にまたがり、「これは演技じゃけん、心配せんでいい」、「俺は何人も熱中症の生徒を見てきている」、「演技をするな。」、「目を開けんか。」などと言いながら、10回程度、被害生徒の頬に平手打ちをしました。

その後、顧問は、他の部員らを集め、面打ちの練習を1回させ、練習を終了しました。

他の部員らや副顧問は、被害生徒に水を飲ませるなどしました。

午前11時55分頃、顧問ら及び他の部員らは、被害生徒に水分を摂らせ、頭部の傷を拭き、応急措置として、部員らが冷却のために利用していた保冷剤で被害生徒の額、頚部、脇の下、腿の付け根を冷やすとともに、大型扇風機を被害生徒に近付けて、風を当てました。

その後、被害生徒が、突然嘔吐しました。顧問は、被害生徒に対して「おまえもう無理なんか。」「救急車呼ぶんか。」などと声を掛けましたが、被害生徒はその声掛けに応じませんでした。

その様子を見て、顧問は、午後0時19分、救急車の出動を要請し、午後0時24分頃、救急車が竹田高校に到着しました。被害生徒は救急車に乗せられ、顧問も救急車に同乗しました。

午後6時50分頃、被害生徒の死亡が確認されました。

翌日、病理解剖が行われ、死亡原因が熱射病であると診断されました。

(なお、本件では、救急搬送された病院の医師による措置にも過失があるものとされています。)

大分県と顧問・副顧問に対する損害賠償請求訴訟

被害生徒の両親は、大分県と顧問・副顧問(および搬送先の病院を設置する豊後大野市)を相手に損害賠償請求訴訟を提起しました。

平成25年3月21日、大分地裁は、顧問の過失について

顧問は、本件事故日、剣道場内において練習の進行順序を決定するなどその全体を把握し、練習開始から部員らの動向を見ており、被害生徒が他の部員よりも多く打ち込み稽古をしており、練習の途中で「もう無理です。」と述べ、その後に竹刀を落としたのにそれに気付かず竹刀を構える仕草を続けるなどの行動を取っていたことも認識していた。このような状況を前提とすれば、顧問は、遅くとも被害生徒が竹刀を落としたのにこれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるという行動を取った時点において、被害生徒が異常な行動を取っていることを容易に認識し得たといえる。そして、このような被害生徒の異常な行動が演技ではなく意識障害の発現であることは明らかであるから、剣道場内の温度、それまでの被害生徒の運動量、また、40分ごとに水分補給をすべきとされていたところ、練習が1時間以上に及んでいたことなどに鑑みて、被害生徒が熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したことについてもやはり容易に認識し得たというべきである。

したがって、顧問には、竹刀を落としたのにそれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるという被害生徒の行動を認識した時点で、被害生徒について、直ちに練習を中止させ、救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送し、それまでの応急措置として適切な冷却措置を取るべき注意義務があったと認められる。

そうであるにもかかわらず、顧問はこれを怠り、被害生徒に意識障害が生じた後も、打ち込み稽古を続けさせようとした。その後に被害生徒がふらふらと歩いて壁に額を打ち付けて倒れた際にも、それが被害生徒による「演技」であるとして、何らの処置も取らなかった。結局、被害生徒に意識障害が生じた後の午前11時55分頃から実際に救急車の出動を要請した午後0時19分頃まで、救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送するという措置を怠ったものであり、この点において、顧問には過失があったと認められる。

と判示しました。

また、副顧問の過失についても

副顧問には、被害生徒に熱射病の徴候である意識障害を窺わせる異常行動が認められた際に、練習を継続する顧問を制止するなどして直ちに練習を中止し、救急車の出動を要請するなどの適切な処置を取るべき注意義務があったというべきである。

ところが、副顧問は、竹刀を落としたのにそれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるなどの被害生徒の一連の行動を見ており、かつ、それが異常な状態であるとの認識も有していたにもかかわらず、顧問が練習を継続するのを制止し、あるいは顧問に練習の中止を要請するなどといった措置を何ら取っておらず、かつ、被害生徒が倒れるに至っても、顧問と同様に、直ちに救急車の出動を要請するなどの措置を取っていないのであるから、上記注意義務に違反した過失があると認められる。

と判示しました。

そのうえで、大分地裁は、

公務員である顧問及び副顧問が、国賠法1条1項の公権力の行使に該当する公立学校における教員の教育活動において、同人らの過失により損害を生じさせたものであるから、公権力の主体である被告大分県が、国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。

とする一方で、

公務員関係については、国又は公共団体が国家賠償責任を負う場合には、公務員個人は民法上の不法行為責任を負わないと解すべきである(最高裁昭和30年判決参照)。

本件においては、前記のとおり、被告大分県が国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うから、顧問及び副顧問は、原告らに対する不法行為責任を負わない。

と判示しました。

被害生徒の両親は、顧問及び副顧問に対する不法行為責任を追及するために、福岡高裁に控訴したもののその判断が覆ることはなく、最高裁への上告及び上告受理の申立てをしたもののやはり判断は覆りませんでした。

住民訴訟の提起

被害生徒の両親は、住民訴訟を提起しました。

先ほどの損害賠償請求訴訟により大分県の責任が認められたため、大分県は被害生徒の両親に対して損害賠償を行うことになりました。

その賠償金は大分県民の税金から支払われることになります。

他方で、国会賠償法1条2項では、

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

と規定しています。

つまり、大分県は公務員である顧問・副顧問に故意又は重大な過失があるという場合には、被害生徒の両親に対して支払った損害賠償金に関する求償権を有することとなり、この求償権の行使を怠っている場合には税金の使い道に問題があるとして、大分県知事に対し、顧問・副顧問に対する損害賠償を求めるように請求することができるのです。

これが住民訴訟です。

ただし、大分県が顧問・副顧問に対して求償権を有するといえるためには、顧問・副顧問に過失があるという程度では足りず、重大な過失があるといえなければなりません。

つまり、顧問・副顧問に重大な過失があるといえるか否かが争点となったのです。

この住民訴訟について、平成28年10月20日、第一審の大分地裁は、顧問の重過失について

顧問は、被害生徒が竹刀を落としたのにこれに気が付かずに竹刀を構える仕草を続けるといった行動を取った時点において、被害生徒の行動が熱射病に起因する意識障害の発現としての異常行動であることを容易に認識することができたのに、指導に熱中し、自身の経験を過信して、それを熱射病の症状と疑うこともなく、何ら合理的な理由もないのに、安易に演技であると決めつけ、練習を継続させ、救急車の出動要請までの時間をいたずらに浪費したものであり、直ちに、被害生徒について練習を中止させることをせず、また、直ちに、医療機関へ搬送することも応急措置として適切な冷却措置を取ることもなかった。それに加えて、前記認定事実によると、顧問は、上記のように意識障害の発現としての異常行動を示していた被害生徒に対し、あろうことか、「演技するな。」などと述べながら、被害生徒の右横腹部分を前蹴りし、ふらつき倒れた被害生徒の頬を叩き、さらに、立ち上がったものの壁に額を打ち付けて出血し、再び倒れた被害生徒に対し、その身体の上にまたがり、被害生徒の異変を察知して近づこうとした副顧問に対して、『演技じゃけん、心配せんでいい。』などとこれを制止し、被害生徒に対し、「演技じゃろうが。」などと言いながら、10回程度、その頬を激しく平手打ちにしているのであり、その後、ようやく練習を終了させ、被害生徒に水分を取らせ、午前11時55分頃から、応急措置として保冷剤で冷やすとともに、大型扇風機を被害生徒に近付かせるなどしていたものの、しばらくした後、被害生徒が嘔吐するなどした様子を見て、午後0時19分頃になってようやく救急車の出動を要請したというのである。このように顧問は、熱射病を疑わせる症状が次々とみられ、体温を下げることができずに時間が経過すれば、死亡する危険が高いといえる状態に至っていた被害生徒に対し、その症状を正確に把握せず、直ちに救急車を要請し、その到着までの間、体温を下げるため適切な措置を取らなかったばかりか、熱中症を疑い、これを確認しようとする副顧問の対応を妨げているのである。顧問は、腹を蹴ったり、再度倒れた被害生徒の身体の上にまたがり、その頬を平手打ちした意図について、気付けであるとか、疲れていて気持ちが気弱になっていたので、奮い立たせるつもりであった旨述べているが、剣道がその競技の特質上、熱中症が起こりやすいといわれていることに加え、本件事故当日、気温が上がる中で、午前10時25分頃から防具を付けた状態で1時間以上休むことなく剣道場で練習をしていた生徒に対し、その健康状態、体調に注意を向けて、生命、身体の安全確保を優先的に図るべき立場にあるにもかかわらず、既に熱射病由来の可能性の高い意識障害を生じ、それが疑われる異常行動を見て取ることができる被害生徒に対し、体調はどうか、熱中症の兆しはないかといった観察や確認をすることなく、かえって、合理的な理由もなく、被害生徒の異常行動を熱中症によるものではないと断定し、通常と異なる被害生徒の様子に気が付いた他の者の関与を妨げているのであり、生徒の生命、身体に対する安全確保をおろそかにし、危険にさらしたものというほかなく、学校教育における生徒の安全確保の施策に明確に反する態度であって、不適切なものというほかない。

このように顧問の行為は、自らの職務上の立場において負うべき注意義務の内容に照らせば、わずかな注意を払えば、被害生徒の行動が演技ではなく、熱射病に起因する意識障害の発現としての異常行動あるいはその疑いがあること、熱中症であればこれを放置すれば死亡する危険があり、迅速に対応すべきことを容易に認識し得たのであるから、被害生徒について直ちに練習を中止させ、救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送し、それまでの応急措置として適切な冷却措置を取るべき注意義務があったにもかかわらず、求められる職責とは正反対の対応をしているのであるから、その注意義務違反の程度は重大であり、その注意を甚だしく欠いたものということができる。

と判示しました。

他方で、副顧問については

副顧問は、顧問である顧問を補佐する立場にあり、練習計画などは全て顧問が決定していたこと、剣道部の練習に参加する回数も限られていたこと、副顧問の立場や顧問との関係性からすれば、副顧問は、顧問である顧問の意向に反することは困難なものであったといえ、加えて、前記認定事実によると、副顧問は、本件当日、壁に頭を打ち付けて倒れた被害生徒に駆け寄った際、顧問から「これは演技じゃけん、心配せんでいい。」、「これが熱中症の症状じゃないことは俺は知っている。」などと制止されたため、これに戸惑い、すぐに救急車の出動を要請するなどの措置を講じなかったものの、被害生徒の様子を窺うなどしていたことが認められ、これらの事実関係等からすれば、副顧問について、その職務上の立場において負うべき注意義務の内容に照らしても、その注意義務違反の程度が重大であり、その注意を甚だしく欠いたものとまでは認められない。

と判示しました。

そのうえで、大分地裁は、大分県が支払った損害賠償額については施設賠償責任保険から免責金額200万円を控除した残額が保険金として支払われていること、損害の公平な分担という見地から、信義則上、県は、損益相殺後残存する損害額200万円の2分の1の限度で、顧問に求償を請求することができるとして、大分県知事に対し、顧問に対して100万円を支払うよう請求せよと命じました。

また、平成29年10月2日、控訴審である福岡高裁も、顧問の重過失について

顧問は、熱射病による意識障害、したがって熱射病自体を疑うべき事態であるにもかかわらず、また、熱射病ではないと断定する合理的な事情はないにもかかわらず、これを演技だと決めつけて指導を続けたというのであるから、生徒の安全確保を図るべき教諭の立場にありながら、生徒の状況を見守ることなく、また、僅かな注意をすれば有害な結果の発生を容易に予見することが可能であったのにそれをすることもなくいたのであって、自らの職務上の立場において負うべき注意義務の内容範囲に照らして、重大な過失があるといわざるを得ない。

と判示して、第一審判決を維持しました(副顧問の重過失については否定されました)。

この福岡高裁判決が確定しました。

被害生徒の両親の思いを受け止めるべき

被害生徒の両親による戦いは、事故発生から実に8年以上も続きました。

その間、被害生徒の両親は、被害生徒を亡くしたという事実だけでなく、「そこまでする必要があるのか」といった世間の冷たい視線にも悩み苦しんだのではないかと思います。

しかし、私は、被害生徒の両親は「それでもやらなければならない」という信念のもとで戦ったのだと思います。

住民訴訟については、たとえ勝訴したとしても、両親には1円も入ってきません。

むしろ、訴訟のための費用(弁護士費用を含む)がかかる分、経済的にはマイナスのはずです。

それでもなお、被害生徒の両親には

同じような被害者を出してはいけない

同じような被害者の親を出してはいけない

という思いだけでなく

同じような加害者(顧問)を出してはいけない

という思いもあったのだと思います。

そのような被害生徒の両親の思いを考えると、より多くの方々に知っていただく必要があると思い、紹介することにしました。

被害生徒の死という悲しい現実を無駄にしないようにすることが、私のつとめなのだと思います。

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“公務員である教師に対しての求償権を行使するように命じた事例” への1件の返信

  1. これだけのデタラメを教育者たちは行い、しかし大分県に徹底的に守られ、その中を両親は必死に戦って戦い抜き、住民訴訟までも勝って顧問に支払うよう言われた金額わずか100万。これでは反省などできません。実際、今日も教育者やりたい放題やってます。
    この施設賠償責任保険の存在は教育界の反省をする機会を奪っています。被害者の救済のためにのみ保険はあるべきで、故意や重過失を犯した人間を守り、温存する制度であれば、公序良俗に反しているので組織解体をすべきです。一国民として本当に憂います。

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