「やらせる」ではなく「やりたいと思わせる」と選手は伸びる

部活動やクラブチームの監督・コーチが選手に対して暴力を振るったり暴言を吐いたりする事件が後を絶ちません。

このような問題が起きてしまう根本的な原因には、「監督やコーチが選手にやらせようとしていることを選手ができないから」ということがあるのではないでしょうか。

しかし、監督やコーチ自身も、自分が選手だったときに同じように当時の監督やコーチに怒られてきた経験があるはずです。

自分が現役のときもこうだった」とか「昔はもっとひどかった」とか思っているかもしれません。

では、監督やコーチによる暴力や暴言で選手はうまくなったでしょうか?

私は、やらせることでは選手は伸びないと思っています。

むしろ、選手にやりたいと思わせれば、選手はどんどん伸びていくと思っています。

その根拠は何か。

それは、私自身の高校野球時代の経験によるものです。

私は東筑高校入学と同時に野球部に入部したのですが、私と同じようにピッチャーとして入部した同級生は複数いました。

しかも、彼らは私よりも背が高く、球も速く、体力もあるし、運動能力も優れている、そういったピッチャーばかりでした。

逆にいうと、私には特に取り柄はなかったかもしれません。

彼らは1年生でベンチ入りし、エースナンバーをつけて登板するなど、私とは雲泥の差がありました。

「このまま高校野球を終えてしまうのではないか」と思ったことも正直あります。

そうした想いを抱えていた高校1年の冬、監督から「春になったらサイドスローに転向するから、そのつもりで冬を越せ」と言われました。

当時、私はオーバースローでしたが、彼らもオーバースローでしたので、このままオーバースローを続けていたとしても追い越すことはできなかったかもしれません。

それよりも、私がサイドスローに転向すれば、チーム内での投手陣にもバリエーションが増えますし、何よりも私が生き残るためにはそれしかないということもあったと思います。

私は、監督から言われたこともあり、冬場にサイドスローで投げるための体作りをしなければならないと考えました。

通常の部活での練習を終えた後、帰宅する前に中学校時代に通っていたスポーツジムに行き、トレーナーにアドバイスを受けながらトレーニングをして帰っていました。

年が明けた2月ころ、ようやくボールを使っての練習をするようになったのですが、監督から要請を受けた東筑高校野球部OBが、私にサイドスローでの投げ方や体重移動の仕方、練習方法などをつきっきりで指導してくださいました。

私は、監督から事前に言われていたこともあり自分なりに練習していたつもりだったのですが、いざ直接指導を受けると予想していたこととは全く異なり、体の動かし方はもちろん、腕の振り方やボールの離し方まで全く違っていました。

初日の練習を終えただけで体のあちこちが筋肉痛になり、まともに歩けないほどになりました。

しかし、そのときの練習は、やらされているというのではなく、「もっと教えてほしい」という気持ちでいっぱいでした。

1球1球に「今のはいい」「今のはダメ」などと言われながらも、一つ一つ丁寧に教えていただけたことで、私も「次は何をすれば良いのですか?」「もっとこうなるためにはどうしたらいいのですか?」という疑問が浮かび、それを一つ一つクリアしていくことで、自分が少しずつ成長していることを実感できていました。

指導してくれたOBからは、私が教えられたとおりのことができなくても、一度も怒られたことはありませんでした。

むしろ、「もっとこうしてごらん」というようなアドバイスをつきっきりでしてくれました。

そうした練習を1カ月ほど続けたころ、紅白戦をすることになりました。

私はレギュラー組を相手に投げることになりました。

レギュラーを相手に投げるということに緊張もありましたが、それよりも「自分が1カ月間やってきたことを試せる」ということがうれしくもありました。

そうして登板した紅白戦、なんとレギュラー組を相手に勝利することができたのです。

このことは、私からすれば「東筑高校を相手に勝った」ということを意味するわけです。

紅白戦とはいえ、とてもうれしく思いました。

と同時に、これから先の高校野球生活に光が見えてきたような感覚もありました。

その1週間後くらいにまた紅白戦があり、そのときもレギュラー組を相手に投げたのですが、今度は打たれてしまい負けてしまいました。

もちろん悔しかったのですが、同時に「もっと練習しないと甲子園には行けない」と思ったことを今でも覚えています。

その後の私は、少しでもコントロールがよくなるように、少しでも変化球が曲がるように、1つでも多くの球種が投げられるようにと、練習を重ねました。

帰宅後もほぼ毎日のようにシャドーピッチングをしていました。

誰かにやらされたのではなく、一日でも早くこのフォームを自分のものにしたいと思ったからです。

そうした練習が実を結び、試合で投げる機会もだんだん増えてきました。

サイドスローに転向してから半年ほどで、夏の予選にも投げることができるほど成長することができたのです。

もし私が「サイドスローで投げさせられている」と思っていたとしたら、成長することはなかったでしょう。

おそらく試合で投げるということもなかったと思います。

あのとき「やりたい」と思わせてくれたからこそ、今の私がいるといっても過言ではないのです。

「やらせる」のではなく「やりたいと思わせる」ことで選手は確実に伸びます。

そのように思わせることが監督・コーチのつとめです。

決して暴力や暴言では選手は伸びません。

無用な事件や事故が起こることもありません。

将来のスポーツ界を担う子供たちのために、こうした指導のあり方を監督・コーチが身につけ、実践することが必要なのだと思っています。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください