落雷による事故に関して損害賠償責任が認められた事例

事案の概要と判決要旨

学校法人Y1学校の設置するA高校に在籍し、サッカー部に所属していたX1が、平成8年8月13日、同校の課外のクラブ活動の一環として大阪府高槻市で開催されたサッカー競技大会に参加していた際に出場した試合の開始後間もなく落雷を受け、視力障害、両下肢機能全廃、両上肢機能の著しい障害などの重度の後遺障害が残った事故に関し、同校サッカー部の引率者兼監督であったB教諭及び上記大会の主催者であった財団法人Y2協会の担当者には落雷を予見して回避すべき安全配慮義務を怠った過失があるなどとして、X1とその母及び兄が、学校法人Y1学校と財団法人Y2協会に対し、債務不履行又は不法行為(民法715条の使用者責任)に基づき、損害賠償を請求しました。

高松高裁判決

この事案について、高松高裁平成16年10月29日判決は、次のように判示して、学校法人Y1学校の債務不履行責任・不法行為責任を否定しました。

「A高校の第2試合の開始直前ころには、遠雷が聞こえており、かつ、本件運動広場の南西方向の上空には暗雲が立ち込めていたのであるから、自然科学的な見地からいえば、B教諭は、落雷の予兆があるものとして、上記試合を直ちに中止させて、同校サッカー部員を安全な空間に避難させるべきであったということになる。

しかし、社会通念上、遠雷が聞こえていることなどから直ちに一切の社会的な活動を中止又は中断すべきことが当然に要請されているとまではいえないところ、平均的なスポーツ指導者においても、落雷事故発生の危険性の認識は薄く、雨がやみ、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったと考えられるから、平均的なスポーツ指導者がA高校の第2試合の開始直前ころに落雷事故発生の具体的危険性を認識することが可能であったとはいえない。そうすると、B教諭においても、上記時点で落雷事故発生を予見することが可能であったとはいえず、また、これを予見すべきであったということもできない。したがって、B教諭が安全配慮義務を尽くさなかったということはできないから、被上告学校に債務不履行責任又は不法行為責任があるということはできない。」

最高裁判決

しかしながら、平成18年3月13日、最高裁は、以下のように、B教諭に落雷事故発生の危険が迫っていることを予見すべき注意義務の違反があったと判示し、更に審理を尽くさせるべきとして、事案を原審に差し戻しました。

「教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動においては、生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから、担当教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。

(中略)

前記事実関係によれば、A高校の第2試合の開始直前ころには、本件運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのである。そうすると、上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても、同校サッカー部の引率者兼監督であったB教諭としては、上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。このことは、たとえ平均的なスポーツ指導者において、落雷事故発生の危険性の認識が薄く、雨がやみ、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら、上記のような認識は、平成8年までに多く存在していた落雷事故を予防するための注意に関する本件各記載等の内容と相いれないものであり、当時の科学的知見に反するものであって、その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。」

高松高裁差戻審判決

高松高裁は、差戻審において、平成20年9月17日、以下のように判示して、学校法人Y1学校の不法行為責任を認めました。

落雷事故発生の危険性の予見可能性及び予見義務

「教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動においては、生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから、担当教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。

(中略)

認定した事実関係によれば、A高校の第2試合の開始直前ころには、本件運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのである。そうすると、上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても、同校サッカー部の引率者兼監督であったB教諭としては、上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。このことは、たとえ平均的なスポーツ指導者において、落雷事故発生の危険性の認識が薄く、雨がやみ、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら、上記のような認識は、平成8年までに多く存在していた落雷事故発生の危険性に関する前記イの各記載等の内容と相いれないものであり、当時の科学的知見に反するものであって、その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。」

本件落雷事故発生の回避措置及び回避可能性

「本件運動広場においては、各コンクリート製柱を中心とした半径8メートル(同柱の高さに相当する)の円内で、かつ、柱から2メートル程度以上離れた部分が避雷のための保護範囲となり、この範囲内にとどまる限り、落雷の直撃に遭う危険性はかなりの程度軽減されることが明らかであり、また、コンクリート製柱は同広場の外周の東側、北側、西側に10ないし11メートルの間隔をもって合計50本が存在していたことからすると、これにより形成される保護範囲は相当広範囲に及び、A高校の第2試合開始直前ころ同広場にいた約200名の生徒ら全員が一時的にしゃがむなどしてとどまり、避雷する場所としては十分な面積があったものということができ、B教諭としては、少なくとも当面同高校の生徒らを上記保護範囲に避難させ、姿勢を低くした状態で待機するよう指示した上、同試合の対戦相手である「Gチーム」の監督であるとともにBコートの会場担当者であったTに対し、試合の延期や中止の場合の通例に従って、落雷の危険が去るまで同試合の開始を延期することを申し入れて協議をし、他校の生徒らについても同様に保護範囲に避難させるなどの措置を執り、天候の変化に注目しつつ、更に安全空間への退避の方法についても検討するなどの措置を執ることが可能であり、そうしていれば、同試合開始後間もなく発生した本件落雷事故を回避できたものといえる。」

被控訴学校の責任

「B教諭は、A高校の第2試合開始直前ころまでには本件落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であり、これを予見すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、同校サッカー部の生徒らを保護範囲(本件運動広場外周に存する50本の各コンクリート製柱を中心とした半径8メートルの円内で、かつ、柱から2メートル程度以上離れた場所)に誘導し、姿勢を低くした状態で待機するよう指示し、かつ、Tに対し、同試合の開始の延期を申し入れて協議の上、更に安全空間に生徒らを退避させる方法を検討、準備するなどの措置を執るなどの落雷事故発生の回避のための措置を執ることなく、漫然と同試合に控訴人X1を出場させ、その結果、同控訴人を本件落雷事故に遭わしめた過失があるものというべきである。

したがって、被控訴学校は、本件落雷事故について、B教諭の使用者として、民法715条に基づき不法行為責任(使用者責任)を負うものというべきである。」

大会の主催者であった財団法人Y2協会の責任

また、差戻審では、以下のように、大会の主催者である財団法人Y2協会についても不法行為責任を認めました。

事実関係

「被控訴協会は、市民の体位の向上と正しいスポーツの普及を通じ競技力の向上を行い、併せてアマチュアスポーツ精神の高揚を図り、もってスポーツ振興に寄与することを目的とし、この目的を達成するため、市民大会、講習会等スポーツに関する行事の開催、スポーツ関係諸団体との連絡協調等の事業を行う財団法人であること、同被控訴人の加盟団体であるサッカー連盟は、高槻市におけるサッカーの普及と技術の向上を図り、加盟団体相互間及び全国サッカー関係者との親睦を図ることを目的とし、各種サッカー大会の主催及び主管並びに後援、サッカーの振興普及及び指導者の育成、その他前記目的を達成するために必要な事業を行う団体であり、いわゆる権利能力なき社団であること、同被控訴人は同連盟に本件実行委員会を設置させて主催者として本件大会を開催したこと、本件大会は、高校生の世代におけるサッカーの競技力向上、選手の交流、指導者間の情報交換等を目的として開催され、同連盟はその開催に当たり同連盟の高校の部に所属する高槻市内の高校のサッカー部の担当教諭を中心として実行委員会を結成し、企画運営に当たらせた。

本件大会には全国から62チームが参加したが、その大半は高校のクラブ活動であった。

TはI高校の体育教諭で「Gチーム」の監督であったが、同チームの試合の指揮は同チームの他のコーチに任せ、本件実行委員会から依頼を受けて本件運動広場のBコートの会場担当者として同コートの整備や試合の進行管理その他雑用等に当たっていた。」

落雷事故発生の危険性の予見可能性及び予見義務

「前記の事実関係からすれば、本件大会の主催者である被控訴協会ないしTその他本件大会運営担当者は、本件大会が、高等学校における教育活動の一環として行われる課外のクラブ活動の参加により成り立っていることからすれば、本件大会に参加する生徒の安全に関わる事故の危険性をできる限り具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、本件大会に参加する生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。

そして、(中略)本件運動広場のBコートにおけるA高校の第2試合の開始直前ころには、同広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのであるから、上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても、同コートの会場担当者であり高校教諭としてサッカーの指導にも当たっていたTとしては、上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。このことは、たとえ平均的なスポーツ指導者において、落雷事故発生の危険性の認識が薄く、雨がやみ、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら、上記のような認識が、平成8年までに多く存在していた落雷事故発生の危険性に関する上記文献上の記載と相いれないものであり、当時の科学的知見に反するものであって、その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭でありかつクラブ活動チームによるサッカー競技大会である本件大会の会場担当者である者の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。」

本件落雷事故発生の回避措置及び回避可能性

「本件落雷事故発生当時の本件運動広場の状況等、落雷に対する安全対策に関する科学的知見を前提とすれば、本件運動広場においては、各コンクリート製柱を中心とした半径8メートル(同柱の高さに相当する)の円内で、かつ、柱から2メートル程度以上離れた部分が避雷のための保護範囲となり、この範囲内にとどまる限り、落雷の直撃に遭う危険性はかなりの程度軽減されることが明らかであり、また、コンクリート製柱は同広場の外周の東側、北側、西側に10ないし11メートルの間隔をもって合計50本が存在していたことからすると、これにより形成される保護範囲は相当広範囲に及び、A高校の第2試合開始直前ころ同広場にいた約200名の生徒ら全員が一時的にしゃがむなどしてとどまり、避雷する場所としては十分な面積があったものということができ、Bコートの会場担当者であり「Gチーム」の監督であるTとしては、同コートで開始直前の試合の対戦相手であるA高校の監督であるB教諭に対し、試合の延期や中止の場合の通例に従って、落雷の危険が去るまで同試合の開始を延期することを申し入れて協議をし、他校の生徒らについても同様に保護範囲に避難させるなどの措置を執り、天候の変化に注目しつつ、更に安全空間への退避の方法についても検討するなどの措置を執ることが可能であり、そうしていれば、同試合開始後間もなく発生した本件落雷事故を回避できたものといえる。」

被控訴協会の責任

「Bコートの会場担当者であったTは、A高校の第2試合開始直前ころまでには本件落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であり、これを予見すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、同コートで同試合に出場するチームに属する生徒らを保護範囲(本件運動広場外周に存するコンクリート製柱を中心とした半径8メートルの円内で、かつ、柱から2メートル程度以上離れた場所)に誘導し、姿勢を低くした状態で待機するよう指示をし、かつ、B教諭に対し、同試合の開始の延期を申し入れてその間により安全な場所に生徒らを待避させる方法を検討、準備するなどの落雷事故発生の回避のための措置を執ることもなく、漫然と同試合を開始するに任せ、その結果、同試合に出場した控訴人X1を本件落雷事故に遭わしめた過失があるものというべきである。

そして、被控訴協会は、本件大会の主催者としてTにBコートの会場担当者としての業務をなさしめていたものであるから、同人の使用者として、本件落雷事故について、民法715条に基づき不法行為責任(使用者責任)を負うものというべきである。」

自然災害による事故であっても損害賠償責任を負う場合がある

落雷による事故はこの事案の前にも発生していましたが、実際に損害賠償責任が認められた事例はないものと思われます。

その意味で、この事案は特殊であるともいえるかもしれません。

しかし、この事故が発生したのは今から20年以上前のことです。

当時とは気象状況が異なっているともいえます。

特に近年では「ゲリラ豪雨」という現象が頻発しています。

そのことを考えると、「落雷は自然災害なのだから避けることはできなかった」と主張して損害賠償責任を免れようとしても、必ずしも認められるとは限りません。

むしろ、損害賠償責任を負うかどうかが問題なのではなく、事故を未然に防ぐという観点から、危険を察知した場合には直ちに事故を回避するための措置をとることが重要であると思います。

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