スポーツ事故が発生した場合の加害選手の法的責任について

プロレスラーが試合中に負った頸髄完全損傷により回復の見込みがないというショッキングなニュースが報道されました。

その他にも、例えばプロ野球選手が死球を受けて骨折したとか、サッカー選手が接触プレーにより靱帯を損傷したなどという事故が起きています。

プロの選手だけでなく、アマチュアの場合であっても、いろいろな事故が起きています。

スポーツは、プロやアマチュアを問わず、さまざまなレベルで広く親しまれています。

しかし、スポーツは身体運動を伴う競技であり、選手の生命や身体を侵害するような事故が発生してしまう危険性をはらんでいます。

つまり、スポーツをプレーしている以上、誰もがスポーツ事故の加害者にも被害者にもなり得るのです。

そこで、今回は、スポーツ中に死傷事故が発生した場合、加害者にはどのような法的責任があるのか、またどのような場合に法的責任を負うことになるのかについて解説してみたいと思います。

スポーツ事故が起こった場合の法的責任とは

まずは、スポーツ事故が起こった場合には、どのような法的責任が考えられるのかについて説明します。

刑事責任

刑事責任とは、犯罪行為を行ったものとして、刑事手続により刑罰を科されることをいいます。

スポーツ事故に関連して刑事責任が問題となるものとしては、スポーツ中に過失によって対戦相手や第三者にけがを負わせた場合には過失傷害罪(刑法 209 条)や業務上過失傷害罪(刑法211 条1項)が、死亡させてしまった場合には過失致死罪(刑法 210 条)や業務上過失致死罪(刑法 211 条1項)が考えられます。

民事責任

民事責任とは、被害者の被った損害について、加害者が損害賠償金の支払義務を負うことをいいます。

スポーツ事故に関連して民事責任が問題となるものとしては、スポーツ中に故意または過失によって対戦相手や第三者にけがを負わせたり死亡させてしまった場合に、不法行為(民法 709 条)に該当するものとして、加害者が被害者に対して損害賠償義務を負うことが考えられます。

どのような場合に刑事責任・民事責任を負うのか

スポーツ選手が刑事責任や民事責任を問われる場合には、加害者に「故意」または「過失」があったことが前提となります。

「故意」とは、刑事責任では罪を犯す意思を、民事責任では結果の発生を認識しながらそれを容認して行為する意思を指します。

例えば、野球で投手が打者にけがをさせようとしてわざと死球を当てたり、サッカー選手が対戦チームの選手がけがをするようにわざとタックルしたという場合が考えられます。

しかし、実際には、スポーツの現場で故意が問題になることはほとんどありません。

スポーツ選手がわざとやったのかどうかを判断することは、通常では不可能だからです(その意味で、先ほど刑事責任の例として「傷害罪」や「傷害致死罪」「殺人罪」などを挙げていません)。

したがって、通常は「過失」の有無が問題になります。

「過失」とは、簡単にいうと、注意義務違反のことです。

より具体的にいうと、スポーツの最中に事故が発生する危険があることを予見でき、かつ、事故が発生しないようにする具体的な措置を執ることが可能であったにもかかわらず、事故を回避するための措置を執らなかった結果、事故が発生してしまった場合に、注意義務違反があったとして、過失が認められることになります。

この場合の注意義務の内容については、スポーツの種類、行為者の属性(性別、年齢、体格差、経験の有無など)、施設の環境(気象状況など)といった諸般の事情を考慮して、個別具体的事案に判断されることになります。

実際に過失の有無が争われた裁判例

では、具体的にどのようなケースで過失の有無が問題になるかですが、対戦相手との間で発生した事故についてはほとんどなく、第三者に死傷の結果が発生したケースで問題になっています。

実際の裁判例を紹介したいと思います。

栃木県内のゴルフ場において、Yが5番ホールのフェアウェイでプレー中、隣の4番ホール(真ん中あたりから進行方向左に曲がっているドッグレッグホール)のティーグラウンドでティーショットしたXのボールが右腕にあたり、右肘打撲の傷害を負ったという事案です。

この件について、東京地裁平成元年3月30日判決は

「ゴルフ競技は、打球の方向や着球地点を任意に調節することが困難であることを前提にして打球の方向や着球地点の正確さを競うものであり、打球の調節が困難であるから、ゴルフコースの設置状況いかんによっては思わぬ方向へ打球が飛び、他人にあたる危険性は否定できないか、ゴルフ競技の存在を認める以上、競技者としては、その技量、飛距離等に応じ自己の打球が飛ぶであろうと通常予想しうる範囲の他人の存在を確認し、その存在を認識するか、認識しうる場合に打撃を中止すれば足りるものというべきである。また、複数のボールの併存と、先行者、後行者の関係が常に存在するこの競技の特質及び競技人口の増加という現実に照らせば、競技者の打球か自己の競技するコースを大きくはずれた場合において、打球の方向、勢い、飛距離、当日のコースの利用状況、風向き、天候などから考えて他人か競技している可能性かある他のコースに飛び込むであろうことを競技者か認識し、または認識しうるときは、打球の他人への衝突を回避するために大声を出して叫ぶ等その他人の注意を喚起する措置を講じる義務かあるというべきである。」

としたうえで、

  • Yは自己の打球が真っすぐ飛べば隣接する5番ホールに飛び込むであろうことを通常予想しえた
  • 4番ホールのティーグラウンドから空隙を通して5番ホールの見通しが可能であり、5番ホールの競技者の存在を確認することか可能であったうえ、その存在を認識するか認識しうる場合には打撃を中止する義務かあった
  • Yは、先に出発した組が5番ホールにいることを十分に予想でき、かつXの存在を確認し得る状態にあったのに、5番ホールの競技者の安全を確認することなくティーショットをした
  • 5番ホール方向に打球をそらし、右打球が同ホール内に飛び込むことか認識し得たのに、大声を出すなどして同ホール内のプレーヤーに対する注意の喚起を怠った

として、Yには過失があるものと認定しました。

違法性阻却事由とは

スポーツは身体運動を伴う競技であるため、生命や身体を侵害する事故が発生する危険性を有しています。

そこで、スポーツ活動中に競技者同士の事故が起こった場合でも、そのスポーツのルールに従っていた場合には、正当な行為あるいは社会的に相当範囲内の行為として違法性が否定されることがあります。

これを違法性阻却事由といいます。

違法性が否定された場合には、刑事責任や民事責任が問われることはありません。

違法性阻却事由の有無が争われた裁判例

スポーツ事故に関連して違法性阻却事由の有無が問題となるのは、試合中に事故が発生し対戦相手が死傷したケースです。

以下では、2つのケースについて紹介します。

東京地裁昭和45年2月27日判決

PTA体育部主催による一般会員(母親)参加の九人制バレーボールの練習に、スカートを着用して参加した被告が、反対コートからの飛球をスパイクしようとして後退しながらジャンプし、気負い込んで強打した拍子に重心を失ってよろめき、二、三歩足早にのめって相手方コートで転倒し、反対コートにいた原告の右足膝部に自己の頸部を衝突させ傷害を負わせました。

この事案について、裁判所は、

「一般に、スポーツの競技中に生じた加害行為については、それがそのスポーツのルールに著しく反することがなく、かつ通常予測され許容された動作に起因するものであるときは、そのスポーツの競技に参加した者全員がその危険を予め受忍し加害行為を承諾しているものと解するのが相当であり、このような場合加害者の行為は違法性を阻却するものというべきである。」

としたうえで、

「被告が練習に参加するに際しセミタイトスカートを着用していたことは、九人制バレーボールの練習に加わる服装としては不適切であり(転倒して自己が受傷する危険が大きい。)、本件事故の転倒もそれが原因ではないと断定できないのであるが、前に認定のとおり右服装は練習で許容されているものであり(しかも右練習に参加した者は被告の服装に、黙示の承諾を与えている。)、被告が前衛を不得手としていたとはいえ、飛球をスパイクしたはずみで転倒することは予測される動作ということができるから、被告の行為は違法性を阻却するものといわなければならない。」

と判示しました。

長野地方裁判所佐久支部平成7年3月7日判決

地域住民による親睦ソフトボール大会(参加資格40歳以上の男女)の試合中に、男性選手(被告)が走り込んでホームにスライディングしたため、ホームベース上で腰を落として捕球しようとしていた捕手の女性選手(原告)が転倒し、左膝後十字靱帯断裂の傷害を負わせました。

この事案について、裁判所は、

「一般にスポーツ競技中の事故による負傷については、社会的相当性を欠くものではないとして違法性が阻却されることが多い。とりわけ、プロ野球や社会人野球、学生野球(ないしソフトボール)など、プロスポーツやそれに準ずるような質の競技であれば、違法性を認め得ないのが原則と思われる。けだし、そうした試合においては、出場選手の相互が肉体的に対等な条件下で、身体の激しい接触をも辞さないプレーをして得点を争うことが、言わば競技の本質上求められており、それ抜きではもはやスポーツとして成立し得ないことにもなるからである。またそうであるからこそ、そうした競技においては、負傷を可及的に回避するための防具の着用なども義務づけられているものと解される。」

としたものの、

「しかしながら、本件のソフトボール試合は、地域住民相互の親睦を目的とした催しであり、住民一般を対象とした男女混合の試合で、参加資格者は40歳以上の高齢者で、しかも、常時女性4名以上の出場が義務づけられるというものであったのである。このように高齢の一般人を対象とした、かつ男女という本質的に異なる肉体的条件下にある者を意図的に混在させたスポーツ競技においては、前述したようなプロスポーツやそれに準ずる競技の場合と異なり、勝敗を争ってプレーをする際に許容される行動の限度が、自ずから異なると考えられる。即ち、場合によっては得点を激しく競うことを犠牲にしても、試合開催の第一目的である相互の親睦という趣旨を尊重し、参加者の負傷や事故-ひとたびそれが発生すればそうした試合の趣旨が大きく損なわれることは明らかである-をできる限り回避すべく行動する義務が、社会通念として、参加者各人に課せられているというべきである。したがってこうした意味において、この種競技の際の負傷行為について違法性が阻却される余地は、プロスポーツなどの場合に比して狭いといわなければならない。」

としたうえで、

「本件試合において被告は、ホームベース上で原告が捕球体勢をとっていることを十分承知の上で、ほとんどホームベースの幅程度しか開いていない原告の両足の間に片足をスライティングさせてホームへの生還を果たそうとしたものであり、それは、捕手をしていた原告との身体的接触がほとんど不可避なプレーであったと言える。そしてさらに、被告が得点を得るべく可能な限りの速力で走り込んで行ったであろうこと、スライディングした足にはもちろん運動靴を履いていたこと、被告は防具類をいっさい身に着けていなかったこと、原告は女性であって男性である被告とは体格や運動能力にかなりの格差があったと考えられることからして、被告のこのプレーは 原告に負債を負わせる可能性が十分に考えられるかなり危険な行為であったと認められる。ちなみに、得点の可能性はより低くなるにせよ、原告の身体との接触を回避しつつ手でホームベースにタツチすることを試みることも十分に可能であったと考えられ、かつ、被告がそのような行動をとったとしても、試合の興趣が格別損なわれるというものではなかったと思われる。したがって、前述した試合の趣旨にもかんがみれば、得点を得ようとするあまり、被告があえて選択した右の如き危険なスライディング行為に違法性阻却の余地を認めることは困難であると言わなければならない。」

と判示しました。

また、同判決は、

「いかに得点の獲得に夢中になってのことであったとはいえ、被告の右行為態様からすれば、原告を負傷させるかもしれないことは予見可能であり、かつそれを回避することも可能であったと考えられるから、被告に過失があったことも優に認められると言うべきである。」

とも判示しています。

最後に

ここで挙げた裁判例の他にも、スポーツ事故における加害者の法的責任(特に民事責任)が問題になったケースは多数存在します。

総じていえるのは、裁判所は、加害選手の法的責任を認定するにあたっては、

  • 当該選手のプレーがルールに従ったものであったか否か
  • 社会通念上相当な行為といえるか否か
  • 競技者間で通常予測される行為であったか否か
  • 特に危険な行為であるといえるか否か

といった点を検討しています。

このようにいうと難しく感じるかもしれませんが、要するに「スポーツをする際にはきちんとルールを守り、また対戦相手にけがなどをさせないように、危険なプレーはやめましょう。」ということです。

特に試合中ともなると熱くなることもありますが、対戦相手に対しての敬意も忘れずにプレーすることを心がけていただければと思います。

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